SPARKILLING

作家志望の発達障害/統合失調症者が展開する文章世界!

「被虐の家」WE AREN’T THE ROBOTS-(2)

※「被虐の家」WE AREN’T THE ROBOTS-(1)より続く

自動録音機の逆襲


 私には実の弟が居ます。と言うよりも、居る、筈なのですが、詳細は不明なのです。
 どう言う事か、それは彼と生き別れている為に、連絡先はおろか、在住地も生死状況も知りません。結婚などをあの人はしているのか、と極たまに考えますが、「あの人」と最初に出て来てしまう思考状態が実際。弟の固有名詞では無く、代名詞が出て来るのです。弟の名前を漢字で今すぐ書きなさい、と言われても私にとっては難問です。漢字そのものでは無く、名前自体を忘れている瞬間があり過ぎます。
 私は最近、組んでいるバンドの仲間内でこう言った会話をしました。

 

A「柚希さんは弟さんが居るんだったっけ」
私「うーん、らしいですね」
B「らしい?」
私「弟の記憶は頭にありますから、多分そうでしょう」
(沈黙)

 私はこう書いていますが、至って真剣です。現実に彼の存在は、私の中で無かったものとして終わっています。彼とどう言った会話を交わしたのか、今ではほぼ、記憶が蒸発状態。何せ、十五年以上に亘って顔を合わせていない為、夢に出て来る弟の姿は子供で止まっています。
 けれども、機械的に弟の存在を処理した自分を、私は一種の意味で褒めたいです。確かに姉として残酷だとか、逃避だとか、そう言う意見は出て来るでしょう。けれども、事情を知った人は、そう言った意見を変える場合が多々あります。

 

謝罪強要罪

 

 高校二年生にて、私は向精神薬を服用し始めました。薬には主作用と副作用がありますが、私の場合は前者が不安の抑圧、後者が身体の震えだったのです。
 食事中、箸を持つ手が震える私を見て、弟は両親にこう言ったとの事。
「姉は気持ち悪い。もう近付きたくない」
 それを父親から聞かされて、私は昔も今と変わらずに「こいつ殺す」と反応しました。こいつ、と言う対象は何も、弟だけではありません。平気で人の中枢を傷付ける発言を伝える親に対しても、同じ事を思ったのです。
 弟は当時、中学生でした。だから姉が精神科に通って薬を飲んでいる姿は異様に見えた事でしょう。それをどう勘違いしたのか、両親は私にこう勧めました。

「心配と迷惑を掛けてごめんなさい、そう弟に手紙を書け」
「私は病気ですから、と」

 両親に、自分は病気であり、その為に弟へ心配と迷惑を掛けている。そう断定されてしまったのです。私の屈辱感は如何なるものか、分かるでしょうか。
 心配はまだしも、迷惑とは何の話だ、私は疑念を抱きました。自分は治療の為に行動を起こしているだけで、弟に不便を掛けると言った実感は一切に持っていなかったのです。
 けれども、両親は私が悪いと断罪を下しました。
 更に、ごめんなさいと謝るように、とも。
 理解が出来ませんでした。

 

弟が出てきた場合にどうするか

 

 結果として、自分は言われた内容の通りの文章を書きました。紙片に書き殴って、親へと無表情で渡したのです。しかし、弟は予想を遥かに超えて、私を気味が悪く見做していました。その紙片は、見られる事が無く、捨てられる末路を辿ったそうです。
 それ以降、私は弟と接触を断ちました。弟も同じです。両親もその構図に参加。一家で揃って寄ってたかって家庭内別居促進運動が開催されました。その末路が、長くに亘って姉弟断絶状態、と言う事なのです。
 もし仮に、今、弟が目の前に出現したとしましょう。私はどう言った行動を取るでしょうか。
 往々にして考えられるのは、「こんにちは!何方でしょうか」と明るく挨拶する事です。何故ならば、成長した彼の顔を全く知らないから。写真も目にした事がありません。だから確認する方法が手元に存在しないのです。
 弟がどう言った反応を取るのかは想像が出来ません。この家庭環境ならば、向こうも私の顔を忘れている事でしょう。互いに「初めまして!」「今日は好い天気ですね!」と他愛も無く言い合いそうです。
 私はそれで別に構いません。と言うよりも、御託を並べましたが、弟が生きていようと死んでいようと、もう知った事では無いのです。彼は私の精神衛生上、悪影響を及ぼすだけの存在なので、今更ながらに出て来られても困ります。
 この世に「他人同士は必ずしも仲が良くなければならない」と言う法律は存在しません。「機械のように物事を処理して生きてはいけない」と言う法律も無いのです。弟を筆頭とした家族相手に、その傾向は顕著となります。
 私は、ロボットを演じ続ける事でしょう。
 けれども、それに反抗する心理も、秘かに持ち合わせているのです。