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作家志望の発達障害/統合失調症者が展開する文章世界!

第四談 精神科医「こう言っては何だけれども」―(3)精神科病棟の屋上と窓の通常

ー大学病院での入院生活は、どうでしたか。
 前の病院に比べると、遥かに良かったです。結局は、電気拷問も施行されませんでしたし。
開放病棟閉鎖病棟のどちらに入っていたのですか。
 閉鎖病棟です。屋上にはそこの患者さん専用の場所が設けてありました。飛び降りを防ぐ為だと思いますが、金網で全方位が取り囲まれていたと言う。
ー過去に、そう言う事故があったのでしょうか。
 精神医療界では普通の事です。つい先日、私は福岡市東区に行きましたが、そこで見た精神科病院の屋上は無防備で、呆気に取られました。窓にも一切、格子が掛かっていない。

 
ー他の診療科では、それが普通ですよ。
 精神科はやはり偏見されているのでしょうか。他方で、そう言う対策をするべき面もあるのは確かですが。難しいですね。
ー東区の、その病院は事故の可能性が無いのでしょうか。
 何とも言えません。実はその隣が、友人の勤務する会社です。そこの社員が神経症になるのでは、と私は余計な心配をしています。「日常的に病院から叫び声が聞こえる」とぼやかれましたし。精神科はそれが日常茶飯事なのに。
ー話を戻すと、あなたも大学病院内で叫んでいましたか。
 いいえ。「大和さんは静かできちんとお話しも出来る」とそこの看護師に言われました。
ー何故、そうだったのでしょう。
 これ以上に厄介事を起こすと殺される、と思っていたからです。完全に自分以外は敵だった。
ー今までの経緯がトラウマになった、と言えそうですね。
 はい。今も引きずっています。敵ばかりだからこそ、私はこうして語るのです。
ー大学病院では、どう言った治療が行われましたか。
 休養を摂った上での、薬物療法です。加えて、主治医が熱心な若い男性の先生で、毎日の様に病室へ話をしに来て下さいました。
ーそれは、カウンセリングの一種でしょうか。
 違うと思います。様子を見ている感じでした。けれども、他者に誠実に対応されたのは、これが初めてだった気がします。嬉しかったです。これまでの人生で、最も尊敬する人物の一人だと思っています。その先生は。
ーどの様な話を、そこでしましたか。
 私は初め、心を閉ざして、話そうとすらしませんでした。けれども、ネガティヴながらも一言二言を発すると、その先生は真摯に返して下さる。繰り返す内に、私も辛さや悲しみ、将来への考えを口に出せました。
ーでは、あなたは他の患者さんともコミュニケーションを取られましたか。
 はい。私は六人の相部屋に入っていましたが、そこには三十代以下の女性が集められていました。皆、それぞれに個性があって面白かったです。
ー個性。
 多分、摂食障害だと思うのですが、ある女性はダイエットの目的で、乾燥したプルーンを食べ続けていました。そして、プルーンが腹に詰まって気持ち悪くなり、今度は吐くと言う。
ーあなたはその方々から、どう見られていたのでしょう。
 受け入れて貰えましたよ。食事の時間になると、プルーンの女性が「柚希ちゃん、ご飯だよ」と声を掛けて下さる。その人は本来、食事も見たくない精神状態の筈なのに。けれども、何となく気が引けて、私は自分の病名を言いませんでした。
統合失調症の事実を、ですよね。
 それが、私は当時、自分はうつ病だと思っていました。
ーあなたの誤解でしょうか、思い込みでしょうか。
 本当の病名を知らされなかったからです。メンタルクリニックで、「抑うつ」と言う医師の発言を聞いて、うつ病なのかな、と判断しました。
ーでは、自分が何の病気なのか知らないまま、精神科に入院していた。
 はい。ずっと疑問でした。
ーいつ、あなたは本当の診断名を知ったのですか。
 二十代初めです。しかも、私が隠れてカルテを覗き見た事で、発覚しました。医師が慌てていましたね。私は申し訳が立たなかった。
統合失調症を告知するつもりは、先方に無かったのでしょうね。
 そうでしょう。何しろ、前身の名称は「精神分裂病」ですから。誰も、自分の精神活動が分裂していると思われたく無いでしょうし、認めたくも無いでしょう。
ーけれども、あなたは知ってしまった。
 当初は衝撃的でしたよ。周囲は皆、知っていた事実なのですが。それが私の感情を爆発させました。「何で黙っていたのか」と。知った所で、何もメリットの無い病気だとは分かりつつ。
ー今は、自覚する事が病気の治療で大切だ、と言われますが。
 そこは医療が進歩したからこそ、変わった部分だと思いますよ。現在は、薬で統合失調症を完治に近い状態まで持って行けますが、昔は症状をコントロールするので精一杯だった。
ーそうなると、十七歳の女子に言えませんよね、実際を。
 これは所謂、不治の病ですからね。相手が更に絶望して自棄になられたらどうしよう。私が医師だったらそう考えます。
ー看護師がきちんと話を出来る、とあなたを評価した理由も、そこにありませんか。
 「精神分裂病」は余りにも名称として強烈です。その人は心の何処かで、「話しても通じない病気」と見ていたのかも知れません。感じ方や受け止め方、意欲の障害が主な症状ですから、別に人間の根本が狂う訳ではありません。表層が乱れるだけです。